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京都地方裁判所福知山支部 昭和61年(ヨ)32号 決定

申請人

別紙申請人の表示記載のとおり

右代理人

別紙申請人代理人の表示記載のとおり

被申請人

別紙被申請人の表示記載のとおり

右代理人

別紙被申請人代理人の表示記載のとおり

右当事者間の業務命令効力停止仮処分申請事件について、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

一  被申請人が申請人らに対し、別紙人材活用センター配属一覧表の「発令年月日」欄記載の日になした同表の「業務命令の内容」欄記載の各担務指定命令の効力を仮に停止する。

二  本件手続費用は被申請人の負担とする。

理由

第一申請の趣旨

主文第一項と同旨

第二事実認定

一  申請人らの主張は多岐にわたるが、申請人ら提出の疎明方法を取調べ、被申請人提出の疎明方法をも取調べ、審理に必要な範囲内で、以下のとおり認定する。

二  本件疎明によると、申請人らがいずれも日本国有鉄道福知山鉄道管理局管内の国鉄職員であること、申請人らが従前それぞれ別紙人材活用センター配属一覧表の「職名」欄記載の職名を与えられ、同表の「勤務箇所」に勤務していたところ、同表の「発令年月日」欄記載の日に被申請人の福知山鉄道管理局管内の現場長から(但し、申請人荒賀、同宮本については同管理局長から)、同表の「業務命令の内容」欄記載の各人材活用センターへの勤務(担務指定)を命じられ、以後今日までこの命令に服していること、以上の事実が一応認められ、被申請人もこれを争わない。

三  本件疎明によると、右発令は被申請人が申請人らに対し事前に発令後の職務の内容やその職務に申請人らが従事することの意義を説明しておらず、申請人らの希望意見を徴することなく、発令日の一週間程前に事前通知書を交付してなしたもので、申請人らの同意を事前にも事後にも得ていないものと一応認められ、被申請人もこれを争わない。

四  本件疎明によると、申請人らはいずれも国鉄に約一一年間ないし約四〇年間働いている中堅もしくは古参職員であり、これまでは申請人足立が保線(土木)、同荒賀及び同安達が保線(軌道)、同北野が建築、同斉藤が車両検修、同宮本が電気、同南田が保線(工事事務)の分野でそれぞれ専門的な職務に従事していたものであり、中には職務上の功績によって上司から表彰を受けた者もおり、勤務成績はいずれも優秀もしくは現在の国鉄職員の平均水準を超えているもので、上司に対する態度が不良であるとか協調性がないとかの事実はないものと一応認められる。被申請人は右認定を左右するに足りる疎明を提出していない。

五  本件疎明によると、申請人らの配属された人材活用センターでの職務内容は、踏切柵のペンキ塗り、土地建物等の財産図面のトレース(申請人足立、同荒賀、同南田)、除草作業、踏切柵のペンキ塗り、所有地の測量、財産台帳の整理、パソコン講習(同安達)、財産の図面書き(同北野)、文鎮製作等のクラフト作業、パソコン講習(同斉藤)、民有地にある国鉄の電柱の敷地料の調査(同宮本)等であり、このほか、その時々の上司の指示によって臨時各種の作業に従事しているが、時にはなすべき作業の指示も与えられていないこともあること、総じて言えば人材活用センターにおける仕事は、(一)申請人らの従前の習熟した技能職種と異なるもので、簡単な作業内容が多く、同人らの持つ技能を活用していないこと、(二)国鉄の増収増益につながらない仕事が多く、国鉄再建のために新職務に就かせるものと言えないこと、(三)定期異動ではなく、実質的には異業種間の配置転換であるのに、転換の趣旨、目的が不明であり、同人らに対し人材活用センターでの作業によって仕事のやり甲斐と生き甲斐を与えることができず、いたずらに精神的苦痛を与えていること、(四)民営化を前にして国鉄財産の明確化をはかるなどの必要な業務もあるが、そうだとすれば余剰人員でプロジェクトチームを編成し、目標を設定し、分担と協調による組織的な活動が期待されるが、申請人の中には命じられるままに一人で沿線をまわり、昼食は線路沿いの神社境内で一人でとっている例があり、期待をはるかに下まわり、実態は単に余剰人員の寄せ集めに過ぎないこと、(五)余剰人員の寄せ集めであるとすれば、数多くの国鉄職員の中で、優秀な又は相当な経験を積んで技能のある申請人らが何故に人材活用センターに発令されたのかその理由が不明であること、以上の事実が一応認められる。

六  被申請人は、福知山鉄道管理局管内の人材活用センターの作業実態は、直営売店勤務、列車内や無人駅での特別改札、駐車場の管理、業務用自動車の整備、点検、軌道保守業務、財産図面及びその補助台帳の整理、臨時列車乗務、波動期における波動駅への助勤、電化に伴う教育訓練その他多能化のための教育など、極めて有意義な業務に従事させており、作業指示がなされていない箇所はない、と言うが、少なくとも申請人らの勤務する各人材活用センターについては前示認定のとおりであり、国鉄業務あるいは国鉄改革への有用性と申請人らにとっての有意義性を一応認めるに足りない。

なお、臨時行政調査会の昭和五七年七月三〇日付基本答申、国鉄再建監理委員会の昭和五八年八月二日付「緊急に講ずべき措置の基本的実施方針」及びその後の第二次提言は国鉄労使の意識改善や職場規律の確立を求め、世人も支持するところであり、申請人らにも一層の企業努力が望まれるところであるが、本件の如き人材活用センターの設置を勧告したものとは解し難い。

七  本件疎明によると、福知山鉄道管理局管内の福知山線、山陰本線(一部)は昭和六一年一一月一日から電化開業しており、機関士、運転士だけでなく多くの国鉄職員の職務内容は変容して来ており、これに対応した養成や訓練が必要であるところ、申請人らは電化開業前に人材活用センターに発令されており、その十分な訓練を受ける機会に恵まれないものと一応認められる。

第三判断

一  前示のとおり、申請人らは、同意をせずに人材活用センターに発令されたものであるが、被申請人は職員に対し人事の権限をもっており、申請人らの同意のない本件発令が当然に無効というものではない。

しかしながら、本人に事前の説明をせず、本人の同意なしに人事発令をするには、それだけ被申請人の業務上の必要性、有用性があり、かつ申請人の技能、勤務実績等の個別の事情からして正当として是認できるものでなければならない。

二  しかしながら、本件各人材活用センターにおける作業内容が前示認定のとおりであり、その必要性、有用性が必ずしも明らかでなく、申請人らの有する専門分野の技能が活用されておらず、職種転換の意義が明らかでなく、多数の職員の中からあえて申請人らを発令する理由が明らかでないのであるから、本件発令は人事権の濫用であり、無効と解するのが相当である。よって、本件仮処分の被保全権利が認められる。

三  前示のとおり、昭和六一年一一月一日からの電化開業に伴い、申請人らの従前の業務内容は変容して来ており、申請人らの如き専門分野の現業職員にとって、変容する作業現場から引き離されるのは看過できない不利益であり、緊急な救済を必要とするものと解される。よって、本件仮処分の保全の必要性がある。

被申請人は、近々人材活用センターは解散する予定であると主張するが、これをもって右保全の必要性が無いと言うに足りない。

第四結論

以上の次第であり、申請人らの申請は理由があるので、保証を立てさせないで認容することとし、本件手続費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 井上正明)

申請人の表示

申請人 足立襄

同 荒賀健一

同 安達仁志

同 北野信夫

同 斉藤清司

同 宮本健生

同 南田康弘

申請人代理人の表示

弁護士 小林義和

弁護士 前田貞夫

弁護士 福井茂夫

弁護士 宮本平一

弁護士 村山晃

右村山晃代理人弁護士 荒川英幸

弁護士 森川明

弁護士 吉田隆行

被申請人の表示

被申請人 日本国有鉄道

右代表者総裁 杉浦喬也

被申請人代理人の表示

弁護士 佐賀義人

小谷静嘉

人材活用センター配属一覧表

〈省略〉

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